『あんなに優しかったゴーレム』ヨーロッパ企画

kleza2008-08-22

作・演出:上田誠、出演:石田剛太、酒井善史、諏訪雅、角田貴志、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力

 というわけで見てきました。今回は松田さんと山脇さんが体調不良での降板ということで、出演していないってのが個人的に残念。しかしながら面白さとしてはいつもどおりのヨーロッパ企画で、二人の降板が決まってから書き直された台本ということもあってか、男ばかりの芝居で十分に楽しめた。

 にしても今回のテーマは深い。深すぎる。
 架空の存在、であるはずのゴーレムが日常に入り込んでいる町を舞台に、そこを訪れたテレビマンたちが、いかにしてゴーレムの存在を信じるようになっていくか。というのを表面的には描いているわけだが、上田誠がそんなシンプルなストーリーと展開を用意するわけもなく、途中で現れる「アレ」とか、放送禁止用語の「キ○ガイ」を連呼することなどによって、事実と空想の端境を行ったりきたり。私の頭の中には『X-File』のテーマが流れてきましたよ。全編これドタバタコメディでありながら、人間の認識力に疑いをもたせてしまう上田誠はもうスゲエ。

 そういう意味では『平凡なウェーイ』のブラックさとか、『Windows5000』の覗き見主義(プライバシーの侵害の境界線)みたいな、「どこまで笑っていいのか」という部分を試されている気さえした。特に、本多力が異端者として扱われるくだりには正直心が痛む部分もあった。正確には異端者として扱われている本多力を笑ってしまう自分に心が痛んだのだ。

 そういう部分も包み込んだ状態で笑いに昇華できる上田誠の作・演出とヨーロッパ企画の役者陣の演技はやはり凄い。いかにもなテーマもいかにもな手法で語ることは誰にでも、とはいわないが結構できてしまうことであるが、上田誠の作品は表面で見えている部分と底で流れている部分でまるきり違うものになっている。それに気づかなければそれまでなのだが、ちゃんと気づかせることができるのが凄い。

 私が見に行ったのは8月20日のマチネで、終演後にトークショーのおまけがついてきた。メインの話題は作劇手法についてのはずだったのだが、当たり前のように脱線しまくってこちらも非常に楽しかった。

 それでも最も興味深かったのはやはり作劇に関する部分で、今回であれば稽古前に役者陣にある本を読ませたそうだ。その本というのが森達也の『職業欄はエスパー』。作・演出家と役者たちの間に共通認識を持つために同じ本を皆が読む、というのはよくあることなのだが、その際にこうした本をチョイスする、というのが面白い。

 上田誠自身は『職業欄はエスパー』を読んで、「エスパーって存在するんや」と思ってしまったそうだ。しかし、宇宙人に関する別の本を読んだときには「宇宙人はおらんな」とも思ったそうで、つまりは、人間の中にある「信じる」という思考の曖昧さというものに注目をしたわけだ。このテーマ自体は古くから語られているもので目新しさはない。しかし、それをこうした形で表現する、というところが上田誠らしさである。

 他にも、「具体的なエピソードは稽古の直前まで書かず、世界観作りをじっくりする」とか、「松田さんと山脇さんが降板することが決まる前の台本では刑事ものだった」とか面白い話も聞けたわけだが、それはトークショーを聞いたものだけの特権である。

 役者陣の感想としては、まさか酒井さんがああいう役で使われるとは思ってなくて、それだけで笑ってしまった、とか、中川さんの「体面第一」の芝居は相変わらず素晴らしいとしかいいようがない、とかそういう感じ。ただ、非常に贅沢ながらも前から3列目で見ていたために、舞台の上半分(そういう作りなんです)が全部見えず、もどかしさを感じた。前の席が取れたときに限ってこれだから自分の運の悪さを改めて思い知りました。

職業欄はエスパー (角川文庫)

職業欄はエスパー (角川文庫)